執心

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 壁を作られてしまった、と ディーチェは思った。  オウラの対外通路は閉じられたのだ。 「 わかった ……、帰るよ……。 相手にしてくれてありがとう ……」   名残惜しさを露わにしながら少年は美しき姿鬼に背を向けた。   細い肩を力なく落とし、小さな足を踏み出して朧月の照らす(うつつ)へと歩み始める。   少年の背が深紫色に溶けると、再び静寂の中に沈んだ闇を夜着と纏い、オウラは孤独に還った。   はっ、と。 美貌の姿鬼は小さな溜息を漏らす。   それは、その闇にしか思いの見えぬ溜息だった。     窓からこぼれる明かりに照らされたステップを上り、少年は玄関のドアを開けた。   物も言わずに自室へ向かおうとした 刹那 、眼前の扉が開いて丈高い男が現れ、 彼の行く手を塞いだ。 「 ディーチェ、 どこに行っていた 」   男は扉を開け放った部屋の電光を半身に浴びながら問うた。   少年は男から顔を背ける。   男―――少年の父親は、息子の小さな肩を大きく肉厚な両手で摑んだ。
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