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懇願
カシルを商店街へ案内したジークは、その足で町長エスター・フォルモの屋敷へ向かった。
「君が今日オフで助かったよー。朝っぱらから呼び出してすまなかったけどね」
客室で待ち構えていたエスターは、金色の茶の入ったカップをジークの前に置きながら明るく笑った。
「いや、別に 」
「まあ朝って言ってももうお昼近いからね。起きて間もないってこともないだろうとは思ってたんだけど」
ジークは柱時計を見上げて改めて日の高さを知った。
「それで、用件は何ですか」
「え?ああ、そう。そうなんだよ」
エスターはやけに愛らしい笑みを向け、ハッと気づいたように表情を戻し、眉根を寄せて無理やり堅い顔を作ろうとした。
彼の表情の変化を訳も分からず見守るジークに町長は低いトーンで話し始める。
「実は昨夜、収容所の番人が、例の姿鬼の頭領に噛み殺されたんだよ」
ジークの目がわずかに細められた。
「番の交代に来た人が最初に見つけたんだ。今から四時間くらい前かな。あの姿鬼のいる牢の中で喉を食い破られて死んでいたらしいよ。僕もさっき現場に行ってきたんだけど、保安部が遺体を片付けた後だった。でも、飛び散った血が凄かったよ」
言った後でエスターは柔らかな桜色をした唇をおぞましげに結んだ。
ジークは一瞬目を伏せ、何事か思案を巡らせているような表情をした。
「それで、その姿鬼は?」
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