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なんだ、そんなことか。
そう言ってジークはあっさりと引き受けてくれる。と、エスターは思っていたようだ。
「あれ?」
予想に反し苦々しげに黙り込んでいるジークを見て、町長は思わず声を出した。
「何か、不都合なことがある?」
睨めつけるような視線を宙に放っていたジークは、そのまま鋭い眼光を町長に向けた。
「いや……」
顎を指で軽く押さえ、視点を彼の顔より下げながら呟くと、再び押し黙る。
「え、何?どうしてもとは言わない、よ?何かあるんだったら、言ってくれた方が……」
言葉の割にはエスターの口調は弱々しかった。どう聞いても本心では断られたくなさそうな様子だ。
「何でもありません。承知しました」
ジークはそう言うと席を立った。
「あ、待ってよ。そんなに早く帰りたいの?ゆっくり話すの久しぶりなのに。煩わしい頼み事したから怒ったってわけじゃないよね?」
「それはありませんが」
「当然、最初は違う番人にやってもらおうと思ってたんだよ。だけど夜間の担当者は殺された人と逃げた人のニ人だけでさ。それで昼間の担当の人に声をかけたら、それは契約違反だと言われて、承知してもらえなくて……」
ジークは再度 ソファに腰掛けた。
「単に臆病なんじゃないのか?」
「う……まあどうだかわからないけどさ。まあでも、昼間の担当者はラゲルと、今日死体を発見した人だからね。どちらも彼女を恐れても無理はないと言うか」
「そもそも殺された番人は何故牢の中にいたんだ?」
「うーん、そこなんだけどね。 鍵を奪われて引き入れられた、とか……」
ジークは嘲笑に似た笑みを漏らした。
エスターの振りかざす幼稚な人道主義は姿鬼に対しては決して適用されることがなく、彼等はどうあっても悪と見なされるのだ。
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