変貌

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 カシルは衣料品店に入り、申し訳程度の枚数の商品の中から礼服に近い形の白い服を選んで買った。  店主は折り込むように畳むことで服をきれいに固定し、むき出しのままカシルに手渡した。  カシルが商店街を立ち去ろうと歩き出した時、背後から荷車を引く音が近づいてきた。  カシルは振り返る。  やって来るのは缶詰を運ぶ老夫婦だった。 「珍しいな。行商人か」  幼い女の子の手を引いて道を歩いていた年配の男が立ち止まった。  カシルも老夫婦の姿に釘付けになって歩みを止めている。  カシルと老婦の目が合った。老婦は丸く皺深い顔を崩して日が差したような微笑みを浮かべた。 「こんにちは」  低く嗄れた声でカシルに話しかける。 「こんにちは」  カシルはペコンと頭を下げる。白布が頬の横で揺れた。 「珍しいなあ、おばあちゃん」  幼女連れの男が声をかけて古びた荷車に寄って来る。  カシルは彼と共に商品を覗き込んだ。
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