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「この地では神様が本当に目に見えるものを与えてくださる。だけどなぜか人々皆が幸せにはならない 」
老婦は微笑みの奥に寂しさを見せて言った。
カシルは顔を曇らせる。
「かみさま?」
缶詰を抱え、きょとんとした幼女に老夫は明るい声で言う。
「ああ、このおばあちゃんな、何十年も昔に遠い国からこっちに来たんだ。そこにはインよりもうちょっとケチな、神様ってのがいたんだとさ」
「えー、じゃあインより良くなかったんだ」
老婦は筋張った手で幼女の頬を撫でる。
「ううん、そんなことなかったのよ 。だって、祈っていることで豊かな気持ちになれたし、幸福にもなれたもの」
「ふうん。じゃ、今はインに祈ってるの?『幸福をください』って」
老婦は苦笑した。カシルも思わず苦笑いした。
「全く、こいつらは不憫だよな。こうやって外を知らずに死んでいくのかねえ」
連れの男が幼女を腕で引き寄せた。
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