変貌

5/24
前へ
/315ページ
次へ
「そうだなあ。儂があの時、歌を破ることが出来ていたら……」   カシルは耳を疑った。 「あの、旦那さん、神術師 なんですか?」  老夫は笑顔のままたるんだ瞼をこじ開け、細い目をやや大きくして答えた。 「昔ね」 「破咒なんて、すごいじゃないですか」  カシルの薄茶色の瞳が、老夫の細い顔の領内でうろうろと視線を彷徨わせている。 「お嬢ちゃん、よく知ってるねえ。見たとこ僧侶か、それこそ神術師だろ?」  彼の言葉にえ、と声を漏らして男がカシルの顔を見る。 「あ、はい……」 「あっ、ママだ!ママ ー!」  カシルの声が幼女の叫び声にかき消された。幼女は男の腕をすり抜け、絹糸の如き髪をなびかせながら、近づいてきた若い女のもとに走り寄った。 「どうしたの、遅いから心配しちゃった。お父さん、面倒かけちゃってごめんなさいね」 「このおじいちゃん、すごいんだって」 「え、あら、行商人の方?缶詰 頂いちゃったの?」
/315ページ

最初のコメントを投稿しよう!

26人が本棚に入れています
本棚に追加