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「そうだなあ。儂があの時、歌を破ることが出来ていたら……」
カシルは耳を疑った。
「あの、旦那さん、神術師 なんですか?」
老夫は笑顔のままたるんだ瞼をこじ開け、細い目をやや大きくして答えた。
「昔ね」
「破咒なんて、すごいじゃないですか」
カシルの薄茶色の瞳が、老夫の細い顔の領内でうろうろと視線を彷徨わせている。
「お嬢ちゃん、よく知ってるねえ。見たとこ僧侶か、それこそ神術師だろ?」
彼の言葉にえ、と声を漏らして男がカシルの顔を見る。
「あ、はい……」
「あっ、ママだ!ママ ー!」
カシルの声が幼女の叫び声にかき消された。幼女は男の腕をすり抜け、絹糸の如き髪をなびかせながら、近づいてきた若い女のもとに走り寄った。
「どうしたの、遅いから心配しちゃった。お父さん、面倒かけちゃってごめんなさいね」
「このおじいちゃん、すごいんだって」
「え、あら、行商人の方?缶詰 頂いちゃったの?」
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