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序章
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昨日も今日も明日も同じ風景に変わらない仕事内容。歪な形状だけが唯一の共通点で何を作っているのかも分からない工場からは常に煙があがっている。
煙の成分はよくわからないが恐らく害は無い。俺も数年、数十年——いやもっと長い時間この場所で過ごしてきたが、特に煙による人体の変化は見受けられない。
そもそも体の成長はこの見た目になってから止まっているし、並大抵のことでは変化もせず、変化しても元の形に戻ろうとするので関係ないのだが。
(これじゃ、趣味の筋トレもできたもんじゃねえな)
とはいえ、数えきれない工場がこの世界で煙をあげている。それは最早、常に電気を付けなければならないほどに視界を遮っている。その上、背の高い工場群の間は道も狭く暗い。
「相変わらずだな、この世界は。この辺りだって聞いたんだが……」
あの人こと、俺の上司であるセブンティーンが間違いを言うはずはない。俺の記憶違いか。
これは上司に全幅の信頼を置いているとかそういった話ではなく、彼らはそういう風に出来ている。
「……今なんか音したな」
どうやら記憶違いではなかったらしい。記憶を辿っていれば、どこからか小さな唸り声が聞こえ、現実に引き戻される。
背に抱えているどっしりと重いハンマーの柄を持ち、軽々と引き抜いた。鬱陶しく目の前を覆っていた煙は武器を抜いた勢いで霧散していき、数十メートル先まで見渡せるようになる。
「なんだ、やっぱいるじゃねえか」
これからの仕事を考えると身体がダルい。今は眠っているが、どうせこいつも目を覚ませばすぐに喚き散らすのだろう。そうでなくてもきっと俺が頼んだ通りにはしてくれない。
よく見ればそれなりに幼いが、子供の精神力がどれほど強いかなんて俺はもう覚えていない。泣き出すかもしれないと考えたらさらに憂鬱になった。
(どうするかな……)
起こすべきか迷ったが、仕事を早く済ませたい訳でもないし、時間なら有り余っている。彼女が起きるまでと思って壁に寄りかかり腰を下ろした。
昨日も勤務時間外の仕事をしてからすぐこの今日の仕事だ。好きな訳でもないのにいくら処理しても仕事は溜まる。たまにはこんな休暇も欲しいものだなんて考えていれば意識が遠のいていた。
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