第四章 不測の間奏曲(インテルメッツォ)

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 それが歪んだとき、咄嗟に楽器を構え直した。ちょうど、休符に入ったときだった。  いけない、本調子に戻らないと……!  右手の力を抜いて、慎重に弦の上に弓を乗せた。どうして先生は渋い面をしたのだろう? あと何拍休符だったっけ? 頭の中が雲がかったかのように答えは思い浮かばず、真っ白になってしまった。  必死に楽譜を追いかける。チェロや金管楽器の特徴的な旋律を耳にして、この箇所だと判断する。同じパートの部員が楽器を構えるのを横目で確認して、私もヴァイオリンを構えた。  出だしが揃った。大丈夫、いける。  小さなミスがあっても、最後まで弾き通せば私たちの勝ちだ。でも、それだけじゃなくて、金賞も取らなくては。成果を出してようやく、軌道に乗っていくものなのだろう。  弦楽器と管楽器の音色が、重なる。  美しい音色となって、会場に響く。  でも、不十分だった。志三栖高校が掲げているスローガンは、演奏を聴きにきてくれている人たちによりよい演奏を届けること。そのために、部員はずっと彼らへの想いを音色に乗せて、音楽を奏でてきた。それを積み重ねてできたのが、彼らの一曲一曲の演奏。そして、そんな彼らの演奏を、多くの人たちが好んではるばると足を運び、好評だと謳った。  歴史に刻まれた名に恥じていたのか、檪先生は厭わしい表情で明らかに私を見つめていた。指揮をしながらも視線を私だけに集中させていてもいいのか。本番の場でなかったら、声を出したかった。  胸騒ぎがしていた。蕗果先輩と残って練習することになってから、こういうことになるのではないかと危惧していた。  本番に全力を尽くすか、本番のための練習に全力を尽くすか。このジレンマを掲げられていた。  もしかしたら本番で本領を発揮できるかもしれない。小さな希望を抱いて、ステージに立った。  だけど、儚く崩れ去った。
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