第四章 不測の間奏曲(インテルメッツォ)

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 普段よりも疎外感が垣間見えた。  私と同じパートの先輩たちも、黙々と一人で練習している。重大な仕事を求められて真剣に取り組んでいるのか、はたまた蕗果先輩への抗いか。後者は彼らのまさに燃えそうな目から感じ取ったのだが……。  振り返ってみると、蕗果先輩は楽器を手に腰掛けたままだった。譜面台をぼんやりと眺めている。トランペットのピストンに指が触れている。なぞるかのように。  正式部員になってから間もないものの、蕗果先輩は普段から熱心に練習に励んでいる印象だった。オーケストラ部の危機というか、今後に大きく響く問題に直面している私たち——特に、副部長である蕗果先輩は重荷を背負っているのだろう。  距離を詰めてみると、蕗果先輩は勢いよく伏せ込んでしまった。肩が上下に動いていなければ心配してしまうほど、ぴくりともしなかった。 「蕗果先輩、大丈夫ですか?」  声をかけた瞬間に、蕗果先輩はビクッとして顔を上げた。見開かれた瞳は、私をまじまじと見つめた後に細くなっていく。 「何だ、あんたか。どうしたんだ?」 「何かあるわけではないんですけど……先輩がいつもより気負いしているような気がして、気になっちゃって。私でよければ、何かお手伝いしますけど」  とはいっても、いますぐできるお手伝いには心当たりがあった。だけど、やっぱり私には決意がなくいい出すこともできなかった。  複雑なメロディーが響いてくる。いっそのこと、体の耳と心の耳を同時に塞ぎたい。先輩を前に背を向けて走り出していたらと考えると、羞恥心は収まらなくなった。  トランペットが反射する照明が眩しくて、蕗果先輩の手元に視線が移る。トランペット奏者だけではもったいない、すらりとした長くて細い指だった。 「気持ちだけ受け取っておくよ。それより、あんたは自分のことだけに集中しろよ。及第点をもらったからって、浮かれていたら仕切り直しなんだ。音に狂いが出たときは先生だけでなく、俺でもわかる」  一喜一憂は命取りなんだよ、とひと言つぶやいてから、蕗果先輩も個人練習に励み始めたようだった。耳に馴染んだ、トランペットで奏でるサビの部分だ。  私はそのときから薄々、違和感には気づいていた。
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