第四章 不測の間奏曲(インテルメッツォ)

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 ばしりといわれた言葉が効いたのか、騒々しく声を荒げていた部員の頭が下がったのが見えた。やはり、副部長の名も伊達ではない。  蕗果先輩も私たちから視線を逸らす。  感情がこもりすぎではあるかもしれないが、彼がいうことには筋が通っている、というか、もはや現状をよく理解していて、聴衆たちの心に影響力を与える的確な言葉を手繰り寄せ、正しい道へ導いてくれている。  しばらくの間、沈黙が続いた。  代理のコンサートマスター及びコンサートミストレスになりたいという立候補はなく、事はこれで収集がついた。 「代理の話は今すぐ決めなくてもいい。だけど、なるべく早く決めてほしいとのお達しだ。少しでもやりたいという思いがあるのなら、いつでも俺にいってくれ」  ようやく壇上から下りた蕗果先輩は、足早に部室を出て行ってしまった。  同時に、ピリピリと張り詰めていた空気が足をひき、部員たちは安堵のため息をついたようだった。まさに、蕗果先輩が彼らを凍てつかせたかのようだった。  余裕がないような蕗果先輩を見ると、いてもたってもいられなくなる。佐久衣と一緒にいるときは、普通の人間らしく、素顔も晒してくれたのに、いまでは死神のようだった。そして、部員はその死神に狙われる、哀れな人間……。  個人練習を始めた彼らに混ざり、私もヴァイオリンを用意して、練習を始めた。  それからしばらくして、蕗果先輩がどこかから戻ってきて、自分のパートの場所まで戻って行った。
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