第四章 不測の間奏曲(インテルメッツォ)

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 楽器を膝の上に軽く乗せれば、蕗果先輩は周囲に聞こえないような小声でいった。 「部活が終わったら校門前で待ち合わせよう。あんたに話しておきたいことがある……」  蕗果先輩が横目で私を見た。鋭い眼光が走っている。もはや逃れられない呪縛のようだった。私は頷くことしかできなかった。  今まで必死に隠そうという姿勢が見られなかったことだから、もしかしたらそこまで気にしてはいないのかもしれない。厳かな空気を生み出した蕗果先輩の眼差しには、寒気が走った。  否、蕗果先輩の本意はこの状況だったのかもしれない。彼に背を向けて自席に戻れば、蕗果先輩は短い弧を描いて、トランペットを構えていた。煌びやかな金色が、手を伸ばしているように見えた。  時計に視線を移す回数が多ければ多いほど、時が過ぎるのが遅く感じた。部活動はいつも、瞬きの間に終わってしまう。  そのはずなのに、今日はやけに遅く感じる。どれもこれも、また新たに生まれたしがらみが絡みついてきたせいだろうか……。
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