第四章 不測の間奏曲(インテルメッツォ)

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 部活動の終わりが来てほしいような、来てほしくないような……そんな謎の狭間を彷徨い、練習を続けていると、あっという間に時間がきてしまっていた。  体が震えていた。何かに怯えているわけでもなく、部室が冷えていたわけでもない。時計が部活動の終了時刻を示していると知ってから、無意識に震えていた。そもそも、意識して震えることなんて滅多にないことだろうけど……。  楽器を手にして、ケースの取手を強く握る。手汗で滑って落としてしまったら一大事だから。  足取りが重いことはなかったけど、気持ちの方はずんと沈んでいた。まるで鉛がくくりつけられているようだった。  でも、自分の楽器と一緒にいると、少し落ち着く。どこまでも着いてきてくれた楽器は、小さなペットのようだ。懐いてくれて、私の気持ちを尊重して反映してくれる。それだけで、この居た堪れないような気分を吹き飛ばしてくれる。  生徒玄関を出てから少し歩き、校門に出た。  高校名が書かれた表札の前に、既に蕗果先輩がいた。制服のポケットに両手を入れて、地面を睨みつけている……ように見えた。いつもピリピリとした雰囲気を醸し出しているけれど、今は肌を突き刺すほどに感じられた。  気配を感じ取ったのか、はたまた足音が聞こえたのか。蕗果先輩は一度ゆっくりと瞬きをしてから、校門から離れた。目の前に立つ蕗果先輩の瞳に、私が映り込む。 「……来たな。場所を変えよう。ここで話すにはリスクがある」 「あ、あの……場所を変えるって、どこへ行くんですか?」  以前も佐久衣や蕗果先輩と部活終わりに吹奏楽を聴きに行ったとき、電車で移動した。唐突なことだったからお金はもってきていなかったから、蕗果先輩に借りたことになったけど。  もしかしたらまた同じ展開かも……なんて杞憂だったらよかった。 「……ちょっと遠出を。オーケストラ部……というか、志三栖高校生から疎遠なところへ行こうと思っている。ここからだと電車で移動だな」  案の定、電車移動だったか。  あんなことがあったから、常に財布に小銭は用意していたけれど、あいにく、今日は購買部でほとんど使い果たしてしまった。こうなるとわかっていたら、贅沢をして高価でカロリーが高い牛丼なんか食べていなかったのに。  目を泳がせていると、蕗果先輩はわかっていましたといわんばかりに小刻みに頷いた。 「無理な願い出をしたのは俺だ。行きと帰りの分の電車代は払ってやる。それでいいか?」 「え、そんなの悪いですよ! 第一、私が先輩の、その……指? のことを突っ込んでしまったからこうなったんですし、何とかしますよ!」  口ではいっておきながら、何も策は思い当たらない。家に一度帰ってもいいけど、往復したらどれほど時間がかかるものか。  ましてや、今日じゃなくてもいいのでは? また明日出直すのでもいいだろう。蕗果先輩の動向を探ってみる。
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