第四章 不測の間奏曲(インテルメッツォ)

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 だけど、その後のことといったら、もはや私が抗うことすらできないほどの冷気が、私たちの周囲に広がっていた。  蘇ってきた蕗果先輩の氷の悪魔のような凍てつく攻撃。ただ私が意識してしまっているだけなのかもしれないけれど、明らかに蕗果先輩は目力の圧で従わせようとしていた。これに抗ったら無傷では帰さないといっているようで、全身の毛が逆立つような思いがした。  早く戻ってきてよ、佐久衣先輩。なんて、先輩づけをするほどまで懇願しちゃってる。でも、こんな悍ましい空気を纏っている蕗果先輩と、佐久衣なしで付き合っていけるとは到底思えない。  確かに、私にはなす術がない。ここは大人しく蕗果先輩に従うのが無難だ。警察官に拳銃を向けられた犯人になった気分だ。これじゃあまるでカツアゲじゃないか。 「……では、お願いします」  この前のときとはいえ、蕗果先輩はすぐにでもお金を出してくれる。なんというか、親に愛されでもしているのだろうか。イメージ的には、ポケットを叩けば小銭が出てくる、みたいな感じだ。黙って道を進み始めた蕗果先輩を追いかけて、バス停についてから時間ぴったりに到着したバスに乗って、停車駅までの料金の小銭が二人分ちょうど出てきた頃から、本当に疑い始めていた。  ここでさすがに、二人分でお願いします、なんて出されたら運転手に勘違いされそうだから、本当に助かる。  だけど、一ついわせてほしい。  電車だけじゃないじゃん。バスにまで乗ってるじゃん。このバス代と電車代をチャラにしてくれるって、どんだけ太っ腹なんだ、この先輩……。
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