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店員に案内された席に着くと、すぐに水がテーブルの上に置かれた。透明なガラスのコップに注がれた水が、照明を通して幻想的な光をテーブルに映し出す。
自身の掌になんとなく照らしつつ、蕗果先輩の顔を見上げた。
あれからというものの、店員からからかわれても言葉一つ発さなくなった。注文が決まりましたらボタンを押してください、という接客の言葉を残してから、私たち二人きりの空間になる。
周囲の音が聞こえなくなる。聞こえてくるのは、自らの早くなった鼓動だけ。
もはや何を話されるのかわからない。これは、入部する際の対面とは全く違う。忌避すべきことであったのかもしれないのに、不用意に近づき、問い詰めた現状だ。
もしかすると、見せしめとかするのだろうか。ここにあんな関係の女性店員もいるのだ。何かしらの罰が落とされてもおかしくない。
呆然と視線を落とす蕗果先輩は、やがて顔を上げた。キリッとした目つきが目を引く。
「あんたさ、俺の指を見て何を思った?」
「え……と」
その奏者である私だからこそ思ったことなのかもしれないけど、なんていえない。でも確かに蕗果先輩は動揺していた。冷静さは欠けなかったけれど、それこそが蕗果先輩だと思えた。
両手をぐっと、力を込めて握りしめる。相手の視線に貫かれないように、そっと口を開く。
「私の思い違い……というか、完全な妄想なんですけど。蕗果先輩ってもしかして……弦楽器を弾けたりします……か?」
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