第四章 不測の間奏曲(インテルメッツォ)

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 楽器は奏者の想いを乗せて音色を奏でる。楽譜に記されている通りに演奏するだけでは、曲に込められた想いを含め、奏者がなぜ音楽を奏でているのかを描き出すことはできない。また、想いだけで聴きにきてくれた人たちへ届く音色も変わってくる。  感情をより刺激させたことで、志三栖高校オーケストラ部は金賞を受賞し続け、全国へ音楽を奏でに行った。歴代の先輩たちは、その軸をぶれることなくやり遂げてきた。特に、コンサートマスターおよびコンサートミストレスは、オーケストラのトップとしてその責任を負い、期待や緊張に抗い続けて奏でてきたのだ。  コンサートミストレスという座を体験した今だからこそ、いえる。  振り返れば、当然のことだったと思う。ただ、私の演奏を聴いてほしいというわがままだけで、佐久衣に届けたいという軽い気持ちで立候補したことが、この結果の引き金だったのだろう。  ステージの一点、スポットライトに照らされた審査員の代表が、結果を発表していた。マイクを口元に近づけ、ゆっくりと口を開く。 「銅賞、上原(うえばら)高校。そして銀賞、志三栖高校。最後に——」  ドキドキしながら待った結果発表は、最後まで慎重に聞くことはなかった。頭の中が真っ白になって、全身から力が抜けていった。一緒にいる部員みんなの視線が怖い。怖すぎて、顔が上げられなかった。  今年の志三栖高校オーケストラ部の結果——銀賞。
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