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黒雲が空を覆い尽くし、すべての地面に影を落とした。過ぎ去って行く景色の影が見えなくなって、一度足を止めた。
一体、どこまで逃げてきたのだろう。住宅街まで来ると似たような景色が目に飛び込んできて、会場から遠くなっているのかわからなくなる。だけど、とにかく部員たちや先生の目から逃れたかった。気持ちの整理をして、それから——。
「……り………」
交差点を渡って、また市街地に入った。行き交う人たちと肩をぶつけるも、逃げるように走り去ることしかできなかった。
背後から足音が聞こえる。早く逃げなきゃ……。
はやる気持ちと共に、歩調が速まる。
「あり……と……在郷っ!!」
「来ないでっ!!」
反射的に声を荒げて、すぐに見えた角を曲がる。その先にも角があったからまた曲がる。追いかけてくるであろう誰かを、撒くことはできたのだろうか。確認する間もなく、広い歩道へ出た。
家への道はどこだっけ? ああ、大変だ、楽器を会場に置いてきてしまった。自分の大事な楽器なのに……。
ぐるぐると回り始めた思考にストップをかける。
「在郷! 待てって!」
意識だけだったつもりなのに、足も一緒になってストップしていた。次第に大きくなる足音にビクビクして、一目散に走り出す。
直後、耳を貫くような大きな音が鳴り響いた。
これまでの人生で一度は聞いたことのある音だと認識してから、体が勝手に動きを止めた。間違いない、これは車のクラクションの音だ。それも——私のすぐ横から鳴った。
暗くなった空間では、車のライトはよく目立つ。私が照らされていて、音が響いた方向へ視線を向けたときには、目が眩んだ。
世界が、暗転する——。
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