18人が本棚に入れています
本棚に追加
「結弦！！」
雷に打たれたのではないか、と瞬時に思った。
ゴロゴロと低く唸った黒雲は、確かに天上から私を嘲笑っている。ずっと苛まれていた思考も、今は放棄できた。手先に冷たい、水滴のようなものが落ちて、ようやく息を吸うことができた。苦しくて、途切れ途切れの呼吸しかできない。
足が痛くて、起き上がれない。腕に力を入れようとしても、思うように動かなかった。コンクリートに斑模様ができて、黒い部分が広がっていく。水滴を弾き、力なく伏した土まみれの掌を見つめた。
その隣で、灰色の平べったい物体が転がっていた。両端が内側に向かって滑らかな曲線を描いている。丸みを帯びた底には、濁った水が溜まっていた。
「危ねえだろ！！」
雷鳴のような、鋭い怒鳴り声が聞こえてくる。
これは走馬灯なのかもしれない。動けない私に、上から怒鳴りつけてくるような無情な人がいるだなんて、信じたくなかったから。
ごめんなさい。謝りたくても、声すらも出なかった。
「すみません」
その中で、大人しい声色の男が話し出した。すごく近くから聞こえてくる。
「彼女には……俺からよくいい聞かせておきます。本当に、すみませんでした……」
「謝って済むと思うなよ！ 後悔しても遅いんだからな！」
バンッ、と大きな音を立てて何かが閉まると、走行音らしいものが遠ざかっていった。
でも、絶えず走行音が傍で鳴る。それを聞いていると、灰色の物体の側面が見えた。音が聞こえてくる……ような気がした。私がこれまで家で練習してきた曲が、聞こえてくる。
まさか、これって……。
「……譜？」
最初のコメントを投稿しよう！