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プロローグ
ーー今日、僕自身がどうしようもなく卑しいことを再認識するなんてどうかしてる。
静けさの中で30人近くの人間が微動だにせず座席の上で固まっていた。もう1時間は経っただろう。スキー場に向かうはずのバスだが、目的地の間近にも関わらず浮かれた表情の者は1人もいないに違いない。
何故ならば、僕達はこの後無事に命があるかどうかすらわからないのだから。
雪が降る音とバスのエンジン音だけが響いている。
僕は窓側の隣の席に座っている女の子の表情を見た。コイツが、コイツさえ居なければ、こんな厄介なことに巻き込まれずに済んだのに。
僕の視線に気がついた後輩は、「にへらっ」という効果音が似合うような笑みを浮かべた。
この女、イイノ ソラは全く静けさが似合わない女だった。
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