エピローグ

1/1

16人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ

エピローグ

 結論から言うと、僕はまた飯能を助けられなかった。  天才イイノ ソラはまた自力で犯人をしばき上げた。  僕が事情を聞いた女子生徒は確かに関わりがあったが、そこで警察を呼ぶよりも先に飯能が犯人を木っ端微塵にして帰ってきたという連絡があったのだ。  今は店長の居ないバイト先で、二人きり。  僕は格好のつかない静寂の中で何度も椅子に座り直した。  まだ、飯能が無事に帰ってきたことを祝えもしていないし、あの日飯能の迎えをサボろうとしたことを謝ってもいない。  それなのに、この無音状態を飯能はこともなげに破ってくる。 「ね、先輩。信じてましたよ」 「うるさい。僕は結局またお前を助けられなかった」  僕は綺麗にしたウィッグ付きの帽子を飯能に返す。 「頼り甲斐がなくて悪い。次は助ける」 「......私はもう先輩に助けられてるっすよー」 「?」  飯能は僕と一緒に帰った初日に買ったエレガントなピンを帽子に指して被った。作り物の髪の毛を揺らして前に歩いていく。  窓から指す夕陽が古本を照らすと、キラキラとした粉が見えた。これは埃だと頭は認識しているのに、美しさを感じるのは、きっと僕の凪いだ心を掻き乱す奴が居るからだ。 おわり。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加