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視線を集めてしまった僕は俯く。
年齢の割に貧弱な身体と中性的な防寒着によって女と言い張ればなんとかなる程度にはなっている。それは飯能の被せた帽子のお陰だ。
「ーー喋らないで行ってください。今の先輩は誰がどう見ても”女の子”ですから」
「え......」
「女ァ! 早くしろ!」
飯能の帽子には長めのウェーブの掛かったウィッグが付いている。俯く僕は自分のことばっかりで、飯能がどんな気持ちでそれを僕に被せたのかも知らないまま。
僕を突き飛ばす前、小さな声で確かに彼女はこう言った筈なのだ。
「私のこと助けてくださいね、千哉(せんさい)先輩」
ーー情けないことに僕は、彼女の代わりに女性として人質から解放された。最後に見た飯能は今にも泣きそうな顔をしていたのに。
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