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雪
日本海側特有の曇り空の毎日。
冬は寒くて仕方ない。
寒空の下で、
君は太平洋側の故郷が恋しいと笑う。
でも、雪が積もれば嬉しそうにはしゃぐ。
「つめたい〜手が凍っちゃう〜」
なんて言いながら嬉しそうに雪を握って離さない。
誰もいない駐車場に彼女の可愛らしい声が落ちる。
「冷たいなら離しなよ」
当たり前のツッコミをしてみても雪玉を作ることに夢中な彼女の耳には入らない。
「ん? なんか言った? 」
にこにこしながら振り向く。
「なんでもないよ」
雪国に住む身からすれば、雪が降ったら雪かきが大変で冷たくて、車の運転も大変で、嫌なことばかりだ。でも彼女の笑顔をみればそんなことは忘れてしまう。
楽しそうに雪玉を投げる彼女。
太平洋側は雪がほとんど降らないから、雪が降るとやっぱり少しワクワクするらしい。
「ちょっと車から雪下ろすから待ってて」
「はーい」
雪道は大変だから、たまたまそこにいた彼女を送ってあげることにした。案の定、車には雪が被っていて、雪を下ろさないといけなかった。
慣れた手つきで雪を下ろす。
「よいしょっ、と」
グッと奥に雪下ろしを押す。反対側に雪を下ろしていると、ひょこっと顔を出す彼女。
「えっ、おい、そんなとこにいると雪落ちてくるだろっ」
自分の下ろした雪が彼女の上に落ちたかと思って焦るが、よく分かってない彼女は、へ? というような顔でこっちを振り向く。
手にはまた雪。車の近くでまだ雪を触っていたらしい。
「まったく、寒いから車の中入ってていいよ」
「え、いいよいいよ待ってる。雪触る」
風邪ひいて欲しくないんだけど。
そんな心配をよそに彼女は雪だるまを作り始める。
そんな姿でさえ可愛くて仕方ないからもうどうしようもない。俺と彼女だけの世界に少し浸った。
「ゆき、帰るぞ」
「はーい」
雪だるまを作って満足した彼女は素直に車に乗る。
「ゆき」という名前があんなに似合う女の子を俺はほかに知らない。
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