7人が本棚に入れています
本棚に追加
Re.スーパーで売られていた件について
まさか、スーパーで昔の恋人が売っているとは思わないだろう。
こんなスーパーが存在して大丈夫なんだろうか。
どうして、周りの客は皆、当たり前のように買い物カゴを手に歩き回っているのか。
真空パックで仮死状態になった彼女を見て、俺は小さなため息をついた。
ご丁寧にラベリングされた挙句、早く売ってしまいたいとばかりにお値打ちのシールまで貼られている。
そう、彼女と出会ったのは真冬の北海道の冷たい海だった。
俺はあてもない旅をしていて、縞模様の美しい彼女と出会い、夢中になったのだ。
外見じゃない、人は言うけれどやはり外見は美しい方がいい。
たとえ、彼女が浅蜊だったとしても。
結局、花火が燃え尽きるように呆気なく、「昔のあなたが好きだった」と彼女から俺に別れを告げてきた。
「ねえ、やっぱりママ、あさりのスパゲッティ食べたいな」
いよいよ、彼女も俺も運命の時が来たか。
生まれ変わるなら人間がいい。
恋だって自由だし、突然パック詰めされたりしないだろう。
浅蜊だけは真っ平ごめんだ。
「そうねえ、砂抜きが面倒だから今度にしましょう」
去っていく足音にホッと胸を撫で下ろしたのも束の間、大きな黒いふたつの目がこちらをのぞいていた。
最初のコメントを投稿しよう!