天才くんの耳栓は

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     内心では、微笑ましい気持ちだった。  神様とか魔法とかを真面目に信じている天才くんが、なんだか子供っぽく思えたのだ。  耳栓のおかげで成績が上がったと彼は言っているが、実際は思い込みに過ぎないのだろう。  一種のプラシーボ効果だ。薬と思って飲めば単なる水でも効く、というのと同じだ。  自分でも気づいていないみたいだけれど、彼は元々、ある程度は「勉強できる子」。少なくとも「やればできる子」だったに違いない。  ノートが最小限の情報だけに整理されているのも、彼自身の日頃の勉強の賜物。授業を聞きながら無意識のうちに「これは必要、あれは必要ない」と頭の中で取捨選択しているのだろう。その際「これは必要」の方だけ意識に強く残るから、まるで「それしか聞こえていない」という気分にもなるのだ。  そのように私は解釈したけれど、彼の子供じみた妄想に水を差すのは申し訳ない。ちょうどサンタさんを信じている子供みたいなものと思えば、そんな子供の夢を壊すのは大人気(おとなげ)ない行為だ。  だから私も魔法を信じているという立場で、少しだけ疑問を挟んでみた。 「それが本当なら、私が話しかけた時に天川君に聞こえたのも、その耳栓が『必要』って判断したからかな?」 「もちろんだよ。無意味な呼びかけなら、僕の耳には入らないはずだからね。つまり……」  天才くんはニンマリと笑みを深める。 「……こうして僕たちが会話するのは、今後の人生において大きな意味を持つ。いわば運命みたいなものさ」  ああ、彼が馴れ馴れしい口ぶりになった理由は、これだったのか。  頭では納得したけれど、むしろ心情的には逆。先ほど感じた小さな「気持ち悪い」が、少し大きくなるほどだった。 「おはよう、優子ちゃん」 「うん、おはよう」  翌日から彼は毎朝、私に声をかけてくるようになった。  それまでも朝の挨拶を交わすことはあったが、それはたまたま目が合った時だけ。でも今度は、私がノートやスマホを見ていても、女の子同士で喋っていてもお構いなしだ。 「優子って、天才くんとあんなに親しかったっけ?」 「『親しい』ってほどじゃないけど、ほら、隣同士だから。挨拶くらいはね」  友達にも不思議がられるほどだが、なんとか誤魔化せた。  彼の馴れ馴れしい態度には少し辟易する。でも「お昼を一緒に」とか「一緒に帰ろう」とか言ってくるわけではないので、まだ許容範囲のうちだったが……。    
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