天才くんの耳栓は

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     翌日の朝。 「おはよう、優子ちゃん……」 「うん、おはよう。……って、天川君どうしたの? 顔色悪いよ?」  思わず私が心配そうに返してしまうほど、彼は酷い表情をしていた。 「うん、調子悪くてね。なんだか聞こえ方がおかしいんだよ、昨日の途中くらいから」  彼は自分の耳を触っている。その拍子に耳を覆う髪が少し揺れて、耳栓を入れっぱなしなのが見えた。 「耳が……じゃなくて、耳栓の具合が悪いの?」 「うん、どうしちゃったのかな……」 「もしかして、魔法の効果が切れちゃったんじゃない? そろそろ時間切れだった、みたいな」  もしも誰かに聞かれてもゲームか漫画の話題だと思われるだろうが、一応「魔法」という言葉は小さな声で口にする。。 「だとしたら困る……。これが使えなくなったら、今日から僕、どうやって生きていけばいいのか……」 「大袈裟だなあ、天川君は。それに『魔法の効果が切れちゃった』も一時的な話かもしれないし、もう少し様子を見てみたら? 自然に直るかも」 「うん。だといいんだけど……」  ますます顔色が悪くなった彼を、優しい声と表情で慰める。内心では「犯人は私なの。ごめんね」と謝りながら。  天才くんが耳栓に違和感を覚えるのも、交換の際に想定した可能性の一つだ。でもその違和感は無意識のうちらしく、だから「違う」とハッキリ意識できないまま、プラシーボ効果の消失が先に出てしまったらしい。  そんなプロセスはともかくとして、彼がここまで憔悴した態度を見せるのは、私の想像を超えている。さすがに可哀想だから、隙を見て再び交換しよう。元の耳栓に戻しておこう。  そう決心したのだが……。  そんな機会は二度と訪れなかった。  さらに翌日、つまり私が魔法の耳栓をすり替えた二日後。  彼は学校に来なかったのだ。  その理由は、ホームルームで担任の先生が説明してくれた。  天才くんは交通事故で亡くなったのだ、と。    
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