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夜空に花が咲く時
『一緒に花火を見に行こう』
『屋台の食べ歩きをしよう』
そう言ったのは、お前だったのに。
花火大会会場の入口は待ち合わせをしている人が大勢いて、このままここにいても合流できる気はしなかった。別にきちんと約束をしたわけではないし、きっとどこかでふらふらしているに違いない。
屋台の食べ歩きが好きな彼は、去年は焼きそばとイカ焼きとかき氷を買いたがっていたっけ。俺は彼を探しながら、彼が好きそうなたこ焼きとじゃがバターと冷やしパインを買った。少々歩きづらくはなったが、冷やしパイン以外はパック入りなので余程の衝撃でない限りぶつかったりしても大丈夫だろう。
お互い離れた場所にいることから会えるのは年に一度、二人の地元の花火大会の日だけだというのに。早くしないと、花火が打ちあがる時間になってしまう。俺は買ったものが崩れないように細心の注意を払いながら、今しがた通った道を戻って行く。昔二人で見つけた、二人だけの秘密の場所。おそらく、彼はもうそこにいる。
「……やっぱりな。調子はどうだ?」
はたして、彼はそこにいた。
花火はとっくに打ちあがり始めていて、その光と音の芸術作品に、彼は目を奪われていた。 集中している彼に声をかけるのは躊躇われたが、俺だって彼と過ごせる時間が惜しい。わざと足音を出して、彼に近づいた。
「相変わらずだよ。知ってるだろ?」
俺の問いかけは愚問にすぎず、彼も理解しているからこそ不満だと言うように頬を膨らませた。再会の定番の挨拶ではあるけれど、彼はあの日と変わらない姿でここにいる。それが答えだ。
俺は彼の隣に買ってきた屋台飯を置き、その隣に腰かけた。彼は俺が買ってきたものを確認すると瞳をきらきらと輝かせて、
「それ、くれ」
片手を俺が持っている冷やしパインへと伸ばした。どちらかというと口直しのデザートだと思われるが、ずっと持っているのも面倒ではあったので、頷いて彼の口に寄せてやる。彼は「サンキュ」とだけ言い、冷やしパインをかじってみせた。しかし、パイナップルの形は変わらない。
「うん、美味い」
満足げな彼の表情に促されるように、今度は俺が一口かじる。パイナップルは、俺の口の形に合わせて姿を変えた。
「花火、綺麗だな」
「……あぁ、そうだな」
花火大会が終われば、彼はここからいなくなる。本当はもっとずっと一緒にいたいけれど、その願いが叶うことはない。それならせめてこの限りある時間を永遠だと感じられるように、触れない彼の左手を握った。
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