夢の音色

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夢の音色

 壁にかけられたカレンダーを見て、今日で八月が終わりだということに気が付いた。  確かに請求書だ何だとばたばたしていたが、毎月のように訪れるそれに、わざわざ何月であるとの意識はいつしか薄れていた。明日も当たり前のように仕事はあるし、まだまだ暑い日も続くだろう。それでも、八月が終わるということは、俺にとっては夏が終わることを意味していた。 「小学校の夏休みってさ、大体八月三十一日が最終日だろ? だから、なんかその日が夏の終わりって感じが強いんだよな」 「あー、なんとなくわかるわ。毎年、明日から学校だと思うと同時にそんな感じがした」  大学生の頃、学部の友人とそんな話をしたことを思い出す。入学式で意気投合し、卒業式の日も遅くまで話し合った仲だった。今では、もう何年も連絡を取っていないけれど。  社会人一年目は時々お互いに声をかけて仕事終わりに会ったりはしていたが、友人が会社を辞めて海外へ渡ってしまったあの日から、一度も言葉を交わしたことはない。相手から連絡が来ないなら自分からとメッセージを送っても、既読になることはなかった。 「あぁ、もうこんな時間か」  明日の支度を済ませて、ぼんやりと過去の今日という日を語り合ったことを思い出していたら、もう寝る時間が迫っていた。携帯のアラームをセットして部屋の照明を落とすと、まるで世界から一人切り離されてしまったみたいだ。  今年も独りで、隣にいてほしいと願った彼を想いながら、静かに夏が終わっていく。ひとりぼっちで迎える明日は、きっと何事もなく過ぎていく。 ぴろん。  どこかで、音が聞こえた気がした。
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