このさきも君と

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このさきも君と

 昨夜から降り始めた雨は今朝になっても止む素振りを見せることはなく、やむなく今回の休日はお家デートの運びとなった。  彼が駅前のレンタルショップで借りてきた映画のDVDを観ながら、俺の家にあったビールをグラスには注がずに缶のまま飲み、枝豆や塩気のあるお菓子をつまむ。昼間から酒が飲めるのは休日の特権だと、エンドロールを眺めながら思った。きっと二人とも酔っているので、映画の感想を語り合うのはもう少し後になりそうだ。  徐々に頭がぼんやりとしてきて、眠気に逆らわずにこのまま目を閉じてしまおうかとしたところで、彼がテレビのリモコンの電源ボタンを押したのが見えた。 「先週さ、二人で藤を見に行ったじゃん?」 「……んん、そうだな。それがどうかしたのか?」  先週はまさに行楽日和と言った晴天で、以前から絶対行こうと話していた藤を見に行ったのだ。薄紫や白色の藤のトンネルは幻想的で、何枚も写真を撮ったことは記憶に新しい。 「実はその時買ったものがあるんだけど、渡し忘れてて。今日持ってきたんだよ」  「ほらよ」とぶっきらぼうに手渡されたのは、藤と同じ薄紫色をした手のひらサイズの紙袋だった。いつの間に買っていたのだろうとか、俺は何も買っていないとか、思うことはあったけれど。彼の様子からお返しを求めているようには感じられなかったので、素直に受け取って中のものを確かめた。 「……キーホルダー?」  シルバーのナスカンの先で、薄紫色の藤の花が揺れている。普段の彼からは想像もつかない可愛らしいプレゼントに、思わず笑みがこぼれた。どういう風の吹き回しで彼がこのキーホルダーを俺にプレゼントしようと思ったのかはわからないが、恋人から貰うものならなんだって嬉しい。仕事用はちょっと恥ずかしいので、プライベートで使うバッグにでも付けることにしよう。 「ありがとう、大事にするわ」  改めてお礼を言おうと彼を見ると、やけに静かだとは思ってはいたけれどまさかのまさか、彼は夢の世界へと旅立っていた。微かな雑音しかない部屋の中で耳をすませば、雨が降っている音が聞こえる。俺の意識の限界ももうすぐだった。俺はゆっくりと彼にもたれかかって、雨の音を聴きながら、夢の世界に身を委ねた。
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