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祝福の行き先
「病めるときも健やかなるときも」
「貧しきときも富めるときも」
「愛し、敬い、慈しむことを誓いますか」
「はい、誓います」
新たな道を歩む二人に、惜しみない拍手を送った。
「……いい結婚式だったな」
「あぁ、二人とも幸せそうだった」
学生時代の友人の一人が結婚し、その結婚式に参列した帰り道のこと。俺は、もう一人の友人である彼と立ち寄った公園のベンチに腰掛けて空を眺めながら、ベンチには座らずに俺に背を向けて立っている彼へちらちらと視線を向けていた。
先程彼が言っていたように、結婚式でこの先の人生を共に歩んで行くことを誓い合った二人の姿は美しく、披露宴は涙あり笑いあり、友人らしく楽しくて素晴らしいものだった。ゆえに、俺は彼の発言と、どこか遠くを見つめるように結婚披露宴のことを思い出している彼が気になって仕方がないのである。
「……誰か、結婚したい相手がいるのか?」
この流れでこの質問をすることは、不自然ではなかったと思う。分かりやすく憧れている姿を見せられたら、誰だって想う相手がいると考えるはずだ。
「いるよ」
やや間があって、彼の言葉が返ってきた。
「そ、そうなのか。全然知らなかったわ。お前なら、幸せになれると思うぞ」
本心からの言葉だった。彼は学生時代から何事も率先して行動し、何より周りを気遣っていた。現在も、働いている会社で同僚や後輩から頼られ、慕われていることは、彼の話を聞いてすぐに分かることだった。
社会人になって数年が経ち、久しぶりの知り合いからの連絡が結婚の報告や招待状であることが珍しくはなくなり、参列者として白いネクタイを着けてスーツに袖を通すことも増えた。次にこれを着るのは、彼の結婚式の時なのだろうか。チャペルで誰かと誓い合う彼と、その姿を後ろから眺める自分が想像されると、目の前の景色がにじんできて俺は慌てて目をこすった。急に彼は心配そうな視線を寄越してきたが、目にゴミが入ってしまったのだと、笑って誤魔化した。
ここで泣いてしまったなどと知られてしまえば、察しの良い彼はその奥にある俺の気持ちにまで気付いてしまうだろう。そして、彼は優しいので気付いたとしてもそれを俺には悟らせず、今と変わらぬ態度で接してくれるに違いないのだ。
「本当は、別の機会に言おうと思ってたけど。俺が結婚したいのは、お前だよ」
「……え?」
彼が、ゆっくりと深呼吸をして、真剣な表情で俺を見る。
「――俺と、結婚してください」
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