病室に鳴り響く、じいさんのおなら

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 前の職場をやめた理由の大きなものに、マンネリ感というものがあった。ずっと似たような作業をし、夜遅くに帰り、責任だけが増えていくプレッシャーと、マンネリ感とピクリとも動かなくなった給料のバランスが見合わないと感じていたのだろう。  よく「天職」という言葉を聞くが、確実にその仕事は私の天職ではないと思っていた。私は薬局で店長をしていた。薬の相談を受けることが、入社当時は緊張し、悩み、そしてお客様の安心した笑顔を見るだけで癒やされていた。だが、次第にその価値が自分の中で減っていく。  店内でお客様とすれ違うときに出していた「いらっしゃいませ〜」の声色がどんどん変化していってるのが自分でもわかった。  何かお探しのものはないですか? という意味を込めていたその言葉は、いつしかただの文字の羅列になり、そしていつしか、話しかけないでくれと心で願うほどになった。  そして、店内でお客様と会話することは減った。  その分増えた時間で、私はいったい何をしていたのだろうか。
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