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「すみません、ほんとにお手数かけてしまって」
言いながら男性は、配達に来たのが女子従業員だったことに、驚いた様子である。亜希はいいえ、お待たせしました、と極力朗らかに言って、後部座席のドアを開けた。
弁当の入った箱は大きくてやや重いので、亜希がもたついていると、運びます、と男性が言ってくれた。
「あ、すみません」
「いえ、こちらの荷物ですから」
大きな手で箱を持ち、軽々と車から出すのが頼もしい。彼は水色の制服にカーディガンを羽織っていたが、「病院」らしく医師の格好をしている。亜希は茶のペットボトルが入った袋を持ち、彼の広い背中を視界に入れながらついて行った。
建物の中は明るく小ざっぱりしていて、暖房の温もりにほっとする。そこはやはり病院の受付を模していた。大きな受付カウンターがあり、横の壁にずらりと並んだ写真をよく見ると、患者、つまりここで修理されたらしいぬいぐるみたちが写っていた。持ち主が感謝の気持ちを込めて、送ってくるのだろう。
どの子も嬉しそうに見える。亜希は「うちの子」に思いを馳せた。ももちゃんの破れかけた首の後ろや、中綿が偏ってしまった耳や腕を直してもらったら、こんな風に嬉しい顔を見せてくれるだろうか?
亜希がつい写真に見入っていると、男性が話しかけてきた。
「今日は開院記念日なんです……これからスタッフで打ち上げをするんですけれど、1人感染症にかかって欠勤して、治療で手が離せなくなってしまって」
「そうでしたか、大変ですね……10折持ってきましたけど良かったですか?」
亜希は思わず訊いたが、彼ははい、と答えた。そして、彼の顔をようやく正面から見たその瞬間、亜希は固まった。
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