公園の男

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 えっ。  今朝、公園にいた男によく似ている……いや、おそらく本人だ。こうして近くで見ると、目から上のイケメンぶりが際立つ。朝日に金色に透けていた髪は、触っているのではなく、元々明るい色なのだろう。鼻から下は不細工だという可能性も否定できないが、さっきから感じがいいのは、多少なりとも彼を佳い男に見せているのかもしれなかった。  マジか、まずい。亜希は不自然に見えないように、彼の顔から目を逸らした。内心かなり焦ったが、男性はスーパーの従業員と公園の不審な女が同一人物だと気づいていない様子だった。髪を束ねると印象が変わるし、眼鏡は顔を隠してくれている。マスクもしているから、わからないだろう。まあしかし、長居は無用だ。  亜希は弁当の箱に入れていた領収書を出し、男性が出した名刺に書かれている通りに、ぬくもりぬいぐるみ病院と宛名を入れた。彼の名は大西(おおにし)千種(ちぐさ)というらしく、名刺の肩書きは「医師」となっている。  この奥で、破れたぬいぐるみを直しているのか。亜希は考える。だから今朝、古いうさぎのぬいぐるみに興味を持って、見ていたのかもしれない。 「細かくてすみません」  大西が手渡して来たのは、12枚の千円札と小銭だった。亜希はいえいえ、と応じる。店の金庫に現在千円札が少ないので、むしろ有り難い。  大西は手早く札を数える亜希の手許に注目していた。小売店のレジ担当や店舗事務員は、銀行員と同じくらい金を数えるのが早い。 「確かにちょうど預かりました、釣り銭が出ないようにご協力くださりありがとうございました」
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