古い子はかわいそうなのか

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古い子はかわいそうなのか

 前日に大きなミッションを無事果たした亜希は、何の懸案も無く、翌日の朝寝坊を楽しんだ。起き出すと予報通り寒く、空には灰色の雲が立ち込め、雪でも落ちて来そうな気配である。  裸のももちゃんは寒そうに見えて、亜希は彼女の身体に軽く布団をかけた。ベッドと箪笥だけが置かれた部屋から出て、洗面台に向かう。暗いので電気を点けた。  ももちゃんの写真は室内でも撮るが、スマートフォンのカメラの限界を感じるのは、こういう時である。曇りや雨の日の屋内撮影は、ただただ薄暗い画面になってしまう。  投稿仲間には、パソコンに落として加工ソフトを使う人も多いが、亜希は基本的に、ももちゃんの写真に手を入れない。それは、SNSに投稿を始めて半年ほど経った頃、フォロワーからやや無思慮な言葉を投げかけられたことがきっかけだった。 「古くて何だかかわいそう」  他のぬいぐるみ撮影ファンからは、こんな言い方ありえない、気にしないで、といった慰めの声が次々に届いた。発言者は古いぬいぐるみを大切にしている人たちから総スカンを食らったのだったが、ももちゃんを大切に扱っているつもりだけに、かわいそうと言われたのは傷ついた。  しかし普段、顔の見えない客から、時に犯罪レベルの理不尽なクレームの電話を受けている亜希は、匿名で自分に向けられたマイナスの感情を短時間でスルーする術を身につけている。開き直りは翌日に訪れた。勝手に憐れんでろ、見たくなきゃ見なければいいし、何なら見ることができないようにしてやる。少し迷ったが、亜希はその人物をブロックした。  そして考えた。古くて惨めに見えようとも、写真を加工せず、ありのままのももちゃんで勝負する。それが自己満足であることもわかっているが、だからどうなんだと言いたくなる。
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