古い子はかわいそうなのか

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 亜希は遅い朝食を終え、歯を磨いてから、昨夜見ていたぬくもりぬいぐるみ病院のホームページに再度アクセスした。小児科の診療所のような柔らかいトーンのトップページから、料金表に進んだ。今、亜希が気になっているももちゃんの「怪我」を全て何とかしてもらい、綿抜きの上クリーニングしたとしたら、2万円はかかりそうである。  そんなに金を使うのは愚かしいと思う反面、ももちゃんが「古くてかわいそう」な子ではなくなる可能性を考えると、ときめいてしまう。亜希だって、四半世紀近く可愛がっているぬいぐるみを、美しく蘇らせたくない訳がない。 「あーあ、宝くじでも当たれば即決するんだけどなぁ」  呟いてみて、愛が足りないと亜希は自分が残念になる。SNSで繋がっている人はみんな、自分のぬいぐるみを本当に愛している。よく晴れた日に手洗いし、手作りの服を着せて、可愛く撮れるよう工夫を凝らす。自分はそんな人たちの足許にも及ばない。  亜希は昨夜もチラ見した、病院のスタッフ紹介のページをタップした。専任医師、つまりぬいぐるみを扱い慣れた常勤のお針子が、7人もいる。他に非常勤もいるようなので、大した繁盛ぶりだ。  大西千種は、専任医師の中でもベテランらしく、院長の次の次に大きな写真が載っていた。マスクを外しても、彼はイケメンである。目許に加えて、鼻から下のパーツもバランスが良い。何げにおっとりと上品な雰囲気で、ちょっと小売業では見かけないタイプだ。 「ぬいぐるみはお客様の大切な思い出を分かち合うパートナー。だから、いつも真摯に向き合っています」  コメントまでイケているような気がするのは、単なる贔屓目だろう。亜希はこの男に、幾許かの好感を抱いていることを自覚せざるを得なかったが、脳内でその気持ちに対してデリートキーを3回叩いた。  ぬくもりぬいぐるみ病院では、預かったぬいぐるみを随分と丁重に扱ってくれる様子だった。一体一体に名札をつけ、ビフォアアフターだけでなく、要望があれば作業の途中の写真も送ってくれるようだ。
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