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SNSに写真を上げていると話すと、どんな写真なんだと訊かれた。だから正直に話した。その頃一番いいねされていた自信作、ももちゃんがカーネーションを手にする母の日向けの写真を見せた。
それだけなのに、セックス込みで丸1年交際し、結婚という言葉もちらついていたのに、次の週にもう会わないと言われてしまった。
30にもなって、ぬいぐるみを手放せないばかりか、嬉々として写真を撮っている私は、キモい女、イタいマイノリティなのだ。亜希はネットの海に浸り、ぬいぐるみが好きな人ばかりと楽しみ過ぎていたせいで、自分がハマっている趣味に関して客観視できなかったのだった。手痛い喪失を経て、思い知らされた……この趣味は、世間には秘めておかねばならない。特に男性には。
亜希は小さく溜め息をついてから、温かい飲み物を淹れるべく立ち上がった。甘いものが欲しいので、湯を注ぐだけでできるココアを選ぶ。
ももちゃんをベッドから連れ出して、膝の上に乗せる。彼女の頭はやや重いので、こてんとテーブルの上に倒れた。すると、ももちゃんがココアの入ったマグカップの前で、飲みたいけれど飲んだら太るからどうしよう、と煩悶しているように見えた。亜希は思わず笑い、身体を捻りながらスマートフォンを構えた。
カシャッ、と高い音でシャッターが切れる。写真を確認すると、思ったより画面は明るかった。悪くないなと思うと、さっきまでの仄暗い回想を含めた嫌な気持ちが霧散した。
決めた。ももちゃんは姪のぬいぐるみだということにしよう。代金や「治療方針」が納得できなければ、無理に申し込まなくてもいいのだから。断りにくければ、姪と姪の母親が渋っている、とでも言えばいい。
亜希はココアを口にしてから、ノートパソコンをテーブルに運んだ。ぬくもりぬいぐるみ病院への問い合わせや申し込みには、専用フォームを使うようなので、パソコンのほうが使いやすそうだからだった。
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