女王は秘密を持っている

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 亜希の目線が鋭くなったことに気づいたのか、真庭は言い訳がましく言った。 「今回だけだって念押ししたからな、あっちもめちゃくちゃ謝ってたし、大目に見てやろう」  亜希は真庭にもうひとつ確認する。 「釣り銭の無いように代金を用意するよう言いましたよね?」 「言った言った、領収書欲しいって言ってたぞ」  真庭は頷きながら答える。領収書はレジに頼まなくてはいけないが、入金が無いのに先に発行するのを、レジチーフが嫌がりそうである。 「それで? 18時に何処なんですか」 「野方」  デスクに座り、地図をネットで開く真庭だが、少し心配だ。彼は車に乗るのが好きで、配達や外への用事を厭わないのはいいのだが、あまり知らない場所に行くと、たまに道に迷う。夕方の忙しい時間帯に店を空けられ、挙げ句迷子になられては困る。  木曜日なので店次長は休みで、事務所同様に他部署も社員が1人しか出勤しておらず、頼める人間がいない。事務所を閉めるのが、一番ダメージが小さいだろう。亜希は意を決して提案した。 「店長、私のほうがその辺詳しいと思いますから私が行きます」  真庭のパソコンの画面を覗きこむと、ぬくもりぬいぐるみ病院とやらは、亜希の自宅から割に近く、全く知らない場所ではない。それに、ぬいぐるみ病院というのが何げに気になった。 「えっ、住野さん運転できるのか」 「オートマ限定ですから、小さいほうの車を借ります」  店舗の車は2台ある。ミニバンはオートマチック、ワンボックスバンはミッションである。弁当と茶を10人分くらいなら、ミニバンで十分だ。  車に乗る話など、職場でしたことがないので、河原崎まで目を丸くしていた。最終のレジの両替を17時に繰り上げて、河原崎に残業してもらい金庫閉めを任せ、亜希が配達に出るという話が纏まる。 「病院の担当はおおにしさんだ、電話してきた人」  亜希は了解し、通常業務に戻る。配達して直帰できないのは残念だが、まあ惣菜部門に恩を売っておくのは、悪くなかった。
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