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公園の男
夕方、河原崎が首尾よく金庫内の計算を終えてくれたので、彼女が上がるのを見届けた亜希は、何の心配も無く配達に出られそうだった。
領収書を発行してもらうためにサービスカウンターに行くと、レジチーフの華村が、用意していたものを手渡してくれた。
「住野さんが行くことないじゃん、店長なんか居ても居なくても一緒なのに」
レジの女帝は毒を吐いた。確かに、と亜希も思ったが、それは口にしない。
「管理職がピーク時に店舗空けることがヤバい、ってだけなんですけど」
「人が薄い時に限ってこういう案件が発生するよねぇ」
とにかく真庭には、外線電話に貼りついておいてもらおうと、華村と話し合う。実は電話応対も、真庭より華村のほうが頼りになるのだが、レジの繁忙時間帯にサービスカウンターに外線を回すのは良くないと亜希は考える。
「金庫の千円札余裕無いんです、閉店までレジ間両替でいってもらえると助かります」
亜希の言葉に華村はわかった、たぶんいけるわ、と応じた。サービスカウンターに客が来たので、亜希は領収書を手にバックヤードに戻る。食品レジは良い具合に客が流れており、爆発的混雑にはならなさそうだ。
亜希は机の引き出しから眼鏡ケースを出した。これから近距離接客に臨むので、これが必要である。
ハッピーストアに入社すると、社員は全員レジ操作の研修を受ける。レジ部門以外の者も、混雑に対応できるようにするためだ。事実亜希も、鷺ノ宮店に転勤して来てから、レジを手伝わない週は無いと言っていい。
しかしどちらかというと接客は避けて通りたいので、亜希はレジに呼ばれたら伊達眼鏡をかけるようにしている。それだけで、客と自分の間に距離感を保てる気がするからだ。
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