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第3話 どこかにきっといる
今日は水曜日。
どういうわけか週刊誌は水曜発売が多いのです。
さらに今日は27日ということで月刊誌もやたらと多い。
うちは立ち読み禁止じゃないから本に紐掛けはしないけど、付録付きのものやコミックにはさすがに紐掛け、ビニール掛けをする。
そんな作業を黙々と朝から続けていた。
お昼になっておばあちゃんと交代。
今日は近くのショッピングモール2Fにある喫茶店『ジャミール』のナポリタンが食べたい気分。
お小遣い(バイト代)ももらったばかりだから別腹でプリンも食べてしまった。
『(あ~っ、やっぱりここのプリンおいしーっ)』と余韻に浸りながらエスカレータを降りていくと、下のイベント広場に正樹君を見かけた。
「正樹くーん、何してるの? 」
「あ、万理望さん....」
正樹君は少しばつが悪そうだった。
「あー、またサボりでしょー?」
「えっと.. うん」
「まだ学校終わる時間じゃないもんね。 ....そうだ! 暇ならコミックの袋詰め手伝ってよ! 」
「え、ええー.. 」
半ば強引に正樹君の手を引っ張って青葉書店に連れていく。
お隣の『やよい生花店』の義男さんが目を丸くしてその様子を見ていた。
「おばぁちゃん、人手連れてきたよ」
「あらあら。じゃ、まだ2箱あるから手伝ってもらおうかしらね 」
さすが! いろはおばぁちゃん! この様子を見てすぐに察したみたいだ。
****
「ねぇ、万理望さんは何で小説作家を目指しているの?」
「ノンノン♪ 童話作家だよ ..前にね、この本屋さんに素敵な男性が訪れて、私、その人に少しでも近づきたくて、その人が好きな童話を読んだの。その人にはもう愛する人がいて、一緒に引っ越していってしまったけど、私の心には童話作家になろうって気持ちを残していってくれたの。とっても面白いんだよ、創るのって」
「..いいなぁ」
「ん? ..うん?」
「万理望さんは本に囲まれて、そして自分の好きなことに取り組める場所があっていいなぁ」
「うん。もしかしたらラッキーだったかもしれない。でも私だってまだ夢の途中だから.... 」
「それでも好きなことを取り組める場所があっていいなって.... 」
「もしかして正樹君にもやりたいことがあるの? 」
「 ..魚」
「魚? 魚屋さんとかになりたいの? 」
「はははは。万理望さんておもしろいね! 」
「もーっ! 真面目に言ってるのに! 」
「ごめん、そうじゃないよ。泳いでいる魚が好きなんだ。小さい頃からいっぱい魚を覚えて、いつか『さかなクン』みたいになりたいなって.... 学校でそれ言ったら、何かみんな僕を馬鹿にするんだ」
「 ..好きなことが嫌になった?」
「嫌になんかならないよ。でも.. 」
「 ..私、高校の時はもっと陰キャのオーラが出ていて、仲が良い友達作れなくて.. でも同じ価値観の友達がいたらもしかしたら学校にいられたかも..って思う事ってあるんだ。正樹君と同じ趣味の子がいないかなぁ.. 」
「 ..学校にはいないよ....きっと.. 」
「じゃあさ、正樹君! いっその事、学校以外で探してみない? 」
「学校以外で? 」
「うん。私ね、小説サイトで投稿しているんだけど、実は実生活では小説を書いていることを秘密にしている人もいるんだよ。でもサイトではみんな同じ人の集まりなの」
「どういうこと? 」
「だから正樹君と同じ趣味の子はどこかにきっといる。一緒に探してみない? 」
「でも、僕のスマホ、SNSとかできないよ」
「ここをどこだと思っているの? 笹塚の商店街だよ。何もネットばかりが手じゃない。もっといい方法がある。アナログ戦術でいこう! 」
「おばぁちゃん! ちょっと出かけてくるね」
「これ! 万理望。どこいくつもりだい? 」
「俊さんのところ! 」
再び正樹君の手を引っ張り商店街を歩く。
向かう先は笹塚駅前ペットショップ「東屋」だ!
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