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その光景を、尋問室の天井裏を走る排気ダクト内から見下ろす者らの姿がある。
数は三。長い金髪を後ろで束ねた美しい女が一人、それに付き従う瘦せぎすの男が二人。全員がそれぞれ同じ装飾が施された深紅の軍服に身を包み、尋問室の男が亀裂に呑み込まれていく光景を固唾を呑んで見守っている。もっとも、男たちは女の後ろに控えているため正確に状況を認識できてはいないだろうが。
やがて男の姿が完全に部屋から消えると、女が静かに囁いた。
「……よし、始めよう」
「しかし……アリシアさんよ、本当にやるのか?」
「ああ、守護天使どもが出張ってくる可能性もある。下手したら俺たちは皆殺しだ。あいつにそれだけの価値があるのか?」
アリシアと呼ばれた女は、男たちの問いを受け静かに瞼を閉じる。
何かに思いを馳せるように胸の前で拳を握りしめると、強い決意と共に呟いた。
「……無くてもやるしかない。君たちにもそれはわかっているはずだ……ゼノン、ラセム」
そう、これは既に出来るか出来ないかの問題ではない。
やるかやらないか、生きるか死ぬか。残された運命は二つに一つであるがゆえに彼女に迷いはない。
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