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『私はあなたを裏切ってしまった。誰よりも大切なあなたを……私は、私自身が憎くてたまらない。こんな私を、どうしてあなたは護るというの』
戦いの前に、そう涙を流して肩を震わせた女の顔が脳裏に焼き付いている。辛そうに顔を伏せる女を抱きしめることもできず、必ず帰ってくるとだけ伝えて塔の外に飛び出した。
「裏切られたなんて……俺は思ってない」
こんな穢れに侵された化け物にさえ温もりを与えてくれた彼女のために、男は安寧を棄てて天に向かって反逆の意志を叫んだのだ。それは男にとって、絶対不変の絆だった。その重みを胸に刻み込んだ男には、彼女の言う裏切りなど霞のようなものに過ぎない。
自らに止めを刺すべく迫り来る白き影から剣を奪いとり、その首を容赦なく切り裂くと同時に、男は死体を蹴って再び空に舞い上がった。
「ど……けぇっ!」
次々と敵を始末し、新たな足場とすることで男は天を目指して疾走する。
もはや趨勢は決したと油断していた白き影たちは鬼気迫る男の進撃に意表をつかれ、完全無欠だったはずのその牙城に綻びが生じ始める。
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