■2.時を見る

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◆水晶玉  あたしは、子どもの頃、同年代に、ハブられて、常にイライラしていた。ハブられていたというのは、正確ではないかもしれない。いじめられていたというよりも、なんか、同じ年代の子たちと、感覚があまりにも違うので、溶け込めないでいた。粋がってはいたが、感情が通じ合える人が誰もいないという状態は、いくら強がっていたところで、結局は脆い。精神的にヤバい時、人はマイナスなことばかりを、拾ってしまいがちになる。  当時、悪質で強欲な事件、異常性・残虐性のある事件も、続いていて、人の悪意に対してあたしはとても過敏になっていた。  当時のあたしは、ガラーホワさんに対して、甘え過ぎていたので、身の回りや世の中の不満なことを、ガラーホワさんにぶちまけ「もう、人類なんか、滅んじゃえばいいのに!」と、ある日言ってしまった。そうしたら、あの水晶玉が光り出した……。 「 ガラーホワさん! あれって水晶玉? なんか、あたしには、変に光って見えるんだけど……」 「 ……………………これは「時」を見る玉よ。見てみる?」 「 え?」  その時、ガラーホワさんは、小さな座布団みたいなものごと、その水晶玉を持ってきた。あたしは、そこを覗き込んだ。  小さな玉の中で、外国人の男たちが、航空写真みたいなものを見て、何か話している様子が見えた。髪型が、なんか、昔っぽい…… 「小さな玉なのに、なんで、こんなに凄く大きくはっきり見えるんだろう」と思ったのを覚えている。 「これって……言葉がわからない……」 「同時通訳してあげるわ……」 ◆ ある写真 作業服のようなものを着た男たちが話していた。 「ああ、間違いないな……見たことがある……軍事パレードで転がされてたやつと酷似してる。念のために送られてきた仕様書とも照らし合わせてみよう。十中八九、中距離弾道ミサイルだ。配備されている数は、20機くらいか……多いな……」 「 ……主任……核弾頭も用意していると思いますか?」 「 ……トーストが出来てるのにバターを塗ってないと思うか?」  え? カクダントウ? ◆ ある陰謀   場面が変わって、なんだか、別のまた、違った雰囲気の初老の男たちが話し合っている。別の言葉だ。  ガラーホワさんが言った。 「ああ、これも訳してあげるわ……」 「通常兵器はともかくとして、あの革命家に、核ミサイルを、本当に、預けて良かったのでしょうか?」 「この作戦には、三つの利点がある。核配備に関しては、わが国は、劣勢だ。これで、かなりの挽回になる。喉元の国にミサイルがあれば、あの国も好き勝手できまい。そして、このミサイルを、あの国が配備しているウラノスシステム撤去の交渉材料に使う。一石三鳥というわけだ」 男は低い声で笑っていた。 ◆ 会議の始まり また別の場面が水晶玉の中に現れた。十数人の男たちが、大きな会議室のような所で、言い合いをしている。 「 輸送船が偽装されていたにしても、どれだけの数の往来を見逃してしまったのか。なんで、本土が射程距離に入る、あんな喉元の国にミサイル基地など作られてしまったんだ!」 「 空爆で破壊するしかない!」 「 ダメだ! いきなり空爆するのは、絶対に私は反対だ! 向こうも引くに引けなくなる!」  あたしは呟いた。 「 これって……」 「バーンズ国連大使!! 奴らは防衛のための施設だと大嘘を言っていた。恐らく戦術核が、本土射程距離内にあるんだぞ! すぐ破壊するべきだ! そして、侵攻作戦に移るべきだ!」 「冷静になってください。リズメイ統合参謀長! 何の警告も無く空爆したら、パールハーバーと同じだということが、わかりませんか?」 「 ケネス司法長官! それなら、どうするというのだ! 指をくわえて見ていろというのか?!」 「 何もしないという選択肢は、もちろんありません。それは、私にもわかっています。私は、交渉と海上封鎖を並行して行い、相手の出方を見ることを提案します。我々は、海上封鎖の法的正当性の検討を始めます。 軍の方では、海上封鎖のためにどれだけの艦隊や兵力が動員できるかを検討していただけないでしょうか?」  
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