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■3.海上封鎖
◆受けいれる覚悟
次の場面では、とても体格の大きい真っ黒なスーツ姿の男と、若い女性が、二人の幼い子どもを連れているのが見えた。
「大統領夫人、あなたにお伝えしなければならないことがあります……」
「コリンズ……あなたが何を言いたいのかわかっています。その前に、伝えておくことがあります。私たちが核シェルターに入らなければならない時が来たら、キャロラインとジョンと私は手をつなぎ、大統領官邸前の庭に行きます。そして、ほかの一般市民の人たちと同じように、運命を受け入れます……」
本当に、あたしは、バカだった。
あたしは、これを見て、世界が終わるとしたら、何も知らない幼い子どもたちも犠牲になるということに、ようやく気がついた。
◆ 空爆の是非
「 大統領! 海上封鎖など、手ぬるい! はっきり言って、弱腰だ! すぐに空爆して、侵攻作戦を進めるべきです!
敵軍は、たかだか、一万ほどしかいないというのに!」
「リズメイ統合参謀長……もし、君が、間違った選択をして、それが採用されたとしても、誰も君を責めることはできない。
ほかのメンバーの間違った意見が採用されても、同様だ……
そうなったら、ここにいる、君も含めて全員、一人残らず生き残っていないからだ。
リズメイ統合参謀長……そのくらいの事態だという事を理解して慎重に発言してくれ……!
ターナー空軍参謀長……君は、現場のことをよくわかっているはずだ。率直な意見を聴かせてくれ」
「 大統領……お尋ねの件ですが、現在の空軍の能力を鑑みて、一度の空爆で全てのミサイルを破壊することは保証しかねます。ミサイル基地は、広範囲に多数存在し、破壊しきれなかったミサイルで反撃を受ける可能性は非常に高いです」
◆ 点呼
また、別の場面。どこかの空軍基地らしい所で、大勢の兵士が慌ただしく動いている。
「マジかよ……これだけの規模の緊急移動なんて、第二次大戦でも無かったんじゃないか?」
「余計なこと言わずに、さっさと動け!」
◆ 向こう側の意識
また別の場面。
「 大統領が、テレビ演説するだと?」
「はい、副首相!」
「首相には伝えたのか?」
「まだであります!」
「あの国のミサイル基地に気付かれた! 早く首相に伝えろ! 下手をすると全面戦争になる!」
◆テレビ演説
次の場面では、大統領のテレビ演説が行われていた。
「かねてから我が国の国民の皆さんに約束した通り、政府はかの地域における連邦の軍事力増強を厳重に監視してきました。過去一週間以内に明白な証拠によって一連の攻撃用ミサイル基地が我が国の喉元の国に準備されている事実が確認されました。
こうした措置は、わが国と同盟国の安全保障上、重大な脅威であり国際法をないがしろにするもので、断固容認するわけにはいきません。
これ以上、連邦が攻撃用ミサイルを増やす事も防ぐ必要があります。我が国は、あの島国に対して海上隔離を行います。
シェーキン首相およびモラン首相に、以下の四つの項目の措置を我が国は、速やかに行う事を宣言します。
・バルベルデ共和国向け船舶の「海上隔離措置」
・バルベルデへの空中監視
・国連安全保障理事会の緊急招集
・そして両国の指導者に『世界を壊滅の地獄から引き戻すための歴史的努力』に参加していただく交渉を開始すること
これが我々が着手した困難かつ危険な努力であることは、誰にも疑いの余地のないことでしょう。今後、この事態が、どのような経過をたどるか予想できません。もし、この危機が……大国同士の大量破壊兵器による応酬の引き金になれば、それは、世界戦争に繋がり、どれだけ人的損害を招くか全く予想できません。
我々の意志と忍耐が試練にかけられています。一番大きな危険は何もしないことです。我々が選んだ道は危険に満ちています。しかしそれは、我々が世界に負っている重大な責任でもあります」
◆ 軍の集結
また、海軍基地みたいなところで、大勢の兵士が移動していく。
「なんで休暇中に呼び出されなきゃいけないんだよ!」
「……なんかヤバくないか? 休暇中の全兵士が呼び戻されてるって……どこの陸海空軍基地もこんな感じらしいぞ……?」
「……戦闘が始めってもいないのに、どんどん戦闘機が出撃している。全空域に相当数の戦闘機が待機してる感じだ……世界中の基地が一斉攻撃を受けることを想定してるのか? ……世間の連中はわかってないけど、これ……とんでもない事態だぞ……」
大雑把にしかわからないけれど、話している場面が移り変わるにつれて、どんどん、ドミノ倒しみたいに事態が悪化していくのがわかった。
また別の場面が現れた。
◆ 大統領の書簡
「大統領『海上封鎖など国際法違反だ。そんなものは突破する』と、ラジオであの国は声明を出してきました。非常にまずい状況です……」
「わかっている。秘密裡に書簡を送ることにする」
「どのような内容ですか?」
「 ……口述筆記してくれ。推敲したあと、シェーキン首相に、送ろう。
『あなたの国は、攻撃用ミサイルを我が国の喉元にある国に与えた。これは、わが国の安全保障上、この上ない脅威です。
それで私たちは……海上「隔離」を実行しました。これは、私がテレビ演説でも伝えた通りです。
国の指導者として、これらの処置を取らざるを得ないことは、シェーキン首相、あなたにも、当然わかっているはずです。
私が、テレビ演説で、申しあげた事の繰り返しになりますが、小さなプライドと、わずかばかりの目先の利益のために、大量破壊兵器で戦いを始めるなら、世界規模で、どれだけの犠牲が出るか予測すらたちません。世界の命運は、今、我らの手にかかっています。誇張ではなく、そのぐらいの事態です。
また、この交渉が長引くことにも、危惧を感じています。小さな偶発的な出来事がきっかけで、一気に事態が悪化しかねない。一刻も早く状況を打開する必要があります。私とシェーキン首相、私たちは、理性と賢明さを持って状況を管理不能な状態にしてはなりません。これは、大国の指導者としての私たちの責務であり、使命であるはずです』」
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