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■4.終末へのドミノ
◆ 迎撃の体制
また、場面が変わった。多分、核ミサイル基地なのだろう。武器のことは、よくわからないけれど、いかつい兵器が、いろいろと備えられていて、基地の出入り口には、小さな要塞みたいなものが作ってある。銃を持っている兵士がたむろしていて、兵士がたくさん乗った軍用車両も走っている。
また場面が切り替わる。今度は、多分、地下の指令室みたいな所……
「 海上封鎖が始まったようです。我が軍は、孤立する恐れがあります!」
「心配するな。この地には、精鋭四万と現地兵三十万がいる。向こうも大きな被害は出したくないはずだ。おいそれと、攻撃をしかけてくるはずがない! それに、空爆でミサイルを破壊しようとしても、残った核弾頭で大統領官邸が吹き飛ばされるということは、向こうも理解しているはずだ……」
あたしは呆れた。あの国の参謀総長の言っていた数字は見当はずれもいい所だ。
◆ 国連での対決
また、別の場面が現れた。何かの国際会議みたいだ。ここでも、怒鳴り合いになっている。
「バーンズ国連大使、お言葉ですが、攻撃的なミサイルの供与など、わが国は行っていない! 根拠のない我が国に対する中傷行為を、我々は断固非難する!」
「 皆さん、今の発言を聞かれましたね?
……これが、わが国が、上空から撮影した写真です。皆さん、見てください!
何度も我が国で、写真を分析・検討を重ねた結果、これは防衛のためのミサイルではない事が確認できました。
防衛のために、なぜ核弾頭を搭載できる中距離弾道ミサイルを配備する必要があるのですか。
こんな重大な事に関して、国際会議の場で写真までつけて我々が嘘をつくと思いますか?
これは、世界の安全保障に対する重大な挑戦であり、核攻撃の連鎖が起きることも考えられる事態です。
今、世界は存続できるかどうかの瀬戸際に立っています。ゾイド国連大使、あなたの国は、密かに攻撃のための弾道ミサイル基地を建設しましたね?
通訳は必要ないでしょう。イエスかノーでお答え下さい!」
「私はあなたの国の法廷に立たされているのではない!」
「あなたは今、世界世論の法廷に立たされているのです!」
「そんな検事のような質問をされても、お答えすることはできない!」
「ゾイド国連大使! 地獄が凍りつくまで、回答をお待ちしていますよ!」
聞いていられない……
◆ 交渉の可能性
「 連邦の首相からの書簡が届きました」
「読み上げてくれ」
「あなたから十月二五日付けの書簡を受け取りました。あなたが事態の進展をある程度理解しており、責任感も持ち合わせていると感じました。私はこの点を評価しています。
世界の安全を本当に心配しておられるのであれば、私のことを理解してくださるでしょう。
私はこれまで二つの戦争に参加しました。至るところで、死を広め尽くして初めて戦争は終わるものだということを知っています。ですから政治家としてふさわしい英知をみせようではありませんか。
今、戦争というロープの結び目を引っ張り合うべきではありません。強く引っ張り合えば結んだ本人さえ解けず…
……それが何を意味するか申し上げるまでもありません。我々の条件としては……」
「 なんだ? 今になって! 海上封鎖など突破すると、伝えてきていた癖に!」
「随分、時間がかかりましたね。意図的に遅らせているんでしょうか」
「それでも、かなり柔軟な内容になりました。これなら交渉の余地があると思います。全面戦争の危機を感じ、向こうも、それは回避したいのだと思います。
この状況で開戦したら、どちらが勝ってもピュロスの勝利です。粘り強く交渉するべきです」
◆ 撃墜と領空侵犯
好転したかと思ったら、事態はまた悪化していった。
「 悪い知らせです、大統領! 我が国の偵察機が撃墜されました。パイロットも、恐らく死亡したものと思われます」
「なんだと? 間違いないのか?」
「やはり、こちらの交渉など、はなから聞く気は無いのだ! 全面空爆と侵攻作戦しかない!」
「 いや、それでも貨物船は、引き返し始めている。刺激するべきではない」
「 まず、小規模の空爆を行って、相手に警告を与え、出方を見るべきではないだろうか」
「 ダメです! これは、向こうの作戦行動ではなく、偶発的な事かもしれない。空爆するにしても、時間を置くべきです!」
「……もう一度、書簡を送る事を検討しよう。それでも、向こうが、さらに軍事行動を取った場合、十月三十日に空爆を開始したらどうだろうか。全員の意見を聴かせてもらいたい」
「 大変です!」
「 今度はなんだ?」
「 こちらの偵察機が、操縦を誤り、連邦に対して領空侵犯をしてしまいました。相手の戦闘機がスクランブル発進したそうです!」
「まずいです。こちらが、核の先制攻撃場所を偵察していると勘ぐられる恐れが……向こうからミサイルで先制攻撃を受ける可能性も……」
「なんということだ! こんなタイミングで、相手を刺激する事が起きるなんて!」
◆ 駆逐艦と潜水艦
寒気がした。こんなに立て続けに……あたしは、教科書で見た核兵器で人が死に絶えた地域の写真を思い出した。今度は、どこかの海の上で、艦船が航行していた。その戦艦のキャビネットで……
水の音と、レーダー音が聞こえる。
「ソナー探知。潜水艦がいるようです。3、いや4隻。友軍ではありません。引き返していく貨物船の護衛でしょうか?」
「演習用爆雷を投下し、浮上するよう警告を!」
あたしは呟いた。
「 え? そんなの警告じゃなくて、攻撃と取られるんじゃ?」
「了解!」
兵士たちが、次々と、二人がかりで、大きな金属の物体を海中に投げ入れていく……
大きな轟音がいくつも起きた。海中にいた潜水艦が、衝撃で嫌な振動をしていた。次は、その潜水艦の中の様子が映った。
「……今、我々は、爆雷攻撃を受けた!
戦争の火ぶたは、切って落とされた。我が軍の誇りを見せようではないか!
核魚雷用意!」
「 え? 核魚雷!?」
あたしは叫んだ。
「艦長! 目にもの見せてくれましょう!」
「副艦長! 祖国のために!」
「 核魚雷発射用意……!」
水中を魚雷が進む音。核爆発。そして、その攻撃による、ドミノが、次々と世界中に倒れていった。あちこちの地域で、核攻撃の応酬が起きた。キノコ雲が無数に立ち、熱風で人々が蒸発し、世界中の被造物が崩れて吹き飛んでいくのが見えた。
その光と風と音の洪水が、こちら側にも押し寄せてきた。
あたしは、目をつぶった。
ガラーホワさんが、呟いた。
「これが、一つの結末だったの」
「 え?」
「試されていたの……」
「え? 何が?」
「人類が……おおいなる者に。ここだけは介入できなかった……」
「え?」
なぜか、少し時間が戻って、またあの場面が続いた。
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