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私がこんな風に体調を崩さなければ、このお屋敷のみんなは平穏に暮らせるというのに……。
「奥様」
そう思っていると、不意にクレアが声をかけてくる。驚いて彼女に視線を向ければ、彼女はとても真剣な表情をしていた。
「奥様。私たちは、奥様のお世話が出来てとても嬉しゅうございますよ」
「……クレア」
「なので、そんな気を遣わせてしまったとか、迷惑をかけてしまったなんて、思わないでください」
クレアが、私の手を自身の手で包み込んでそう言ってくれる。
……そうだ。このお屋敷の人たちは、誰よりも温かいのだ。私がどれだけ迷惑をかけたとしても、笑って許してくれるような人たちなのだ。
「……えぇ、ありがとう」
それに気が付いたからなのか、私の口からは自然とそんなお礼の言葉が零れていた。
謝罪の言葉じゃない、お礼の言葉。きっと、聞く方からしても「ごめんなさい」よりも「ありがとう」の方がいいのだろうな。
「というわけで、奥様。たっぷりと栄養を摂って、回復しましょうね」
「……そうね」
本当のところ、私は知っている。……栄養を摂ったくらいじゃ、これは完全には回復しきらないということを。
しかし、今はそう信じたかった……の、かもしれない。
(いつか、きちんと治ってくれたらいいのだけれど……)
そう思っても、それがなかなか難しいことはわかっている。
……だけど、願うくらいは良いじゃない。前を向くくらいは、いいじゃない。
自分自身に、私はそう言い聞かせた。
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