3232人が本棚に入れています
本棚に追加
次の日の朝。
私は重苦しい瞼を開いて、ぼうっと天井を見上げる。
……身体は、まだ重い。まるで自分の身体ではないのではないかと思えるほどだった。
そんなことを考えながら、少しだけ身体を動かして壁にかかった時計を見つめる。
時間は、普段の目覚めの時間よりも二時間ほど遅い。
(……寝かせておいて、くれたのね)
私の調子が悪いとき、このお屋敷の人たちは皆そろって私をそっとして、寝かせておいてくれる。
それがありがたいような、何ともむず痒いような。
そう思いつつ、私はサイドテーブルの上にあるベルをちりんと鳴らす。
すると、数分後に寝室の扉が開いてマリンが顔を覗かせた。
「奥様~、お目覚めですか?」
「……えぇ」
控えめにかけられた声に、私は返事をする。そうすれば、彼女はホッと胸をなでおろしつつ、私の方に近づいてきてくれた。
押しているワゴンには、朝食などが載せられている。
「あまり食欲がないかもしれませんが、食事をされなければ余計にお身体に悪いので……」
それは、理解している。なので、私は文句を言うことなく頷いた。
「旦那様にも、奥様がお目覚めになったという連絡を入れておきますね」
「……けれど、無駄に心配をかけてしまうじゃない」
そうだ。ただでさえ旦那様はお忙しいのだ。最近はそのお忙しさに拍車がかかっているというし、あまり手を煩わせるわけには――。
「いえいえ、旦那様も奥様のご体調を心配されておりましたので」
対するマリンはにっこりと笑ってそう言ってくれる。……そっか。私はもう、一人じゃないんだ。
最初のコメントを投稿しよう!