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自分の手のひらを見つめる。……ちょっと荒れた手。庭師と一緒に庭仕事をしているから、当たり前なのかもしれない。けど、貴族令嬢としてはダメなのだろうな。なんて。
「奥様? 何か考え事でございますか……?」
そんなことを思っていると、不意にマリンがそう声をかけてきた。そのため、私は誤魔化すように笑う。
「いえ、何でもないわ」
「……そうでございますか」
マリンが悲しそうな表情を見せる。……ごめんなさい。これは、マリンやクレアには相談できないことなのよ。
(だったら、サイラスに相談するのが一番なのかも……)
旦那様はお忙しいし、こういうことを相談するのに適任なのはやっぱりサイラスだ。……時間を、作ってもらおうか。
「……ねぇ、マリン」
そう思ったから、私はグラスに注がれたお水を一口飲んで、マリンに声をかけた。
すると、彼女は少し間をおいて「はい」と返事をくれる。……その声は、いつもよりも覇気がない。
(やっぱり、クレアとマリンにも心配ばっかりかけているのね……)
体調が悪いと、心の調子も悪くなってしまう。それを再認識しつつ、私はマリンの目をまっすぐに見つめた。
彼女の視線と、私の視線がばっちりと交わる。
「あのね、サイラスに相談があるの。……少し、時間を作ってもらえないか頼んでくれないかしら?」
「……サイラスさんに、ですか?」
「えぇ。……魔力関係のこと、だから」
そっと視線を下げてそう言えば、マリンは少し考えたのちに頷いてくれた。
「それは承知いたしました。ですが、旦那様も交えた方がいいかと、思います」
「……旦那様も?」
「はい。……旦那様も、ある程度は知識があると思われますので」
私の不安を和らげるかのように、マリンが笑ってそう言ってくれる。
……そっか。
「じゃあ、旦那様にも時間を作ってもらわなくちゃ」
その笑みを見ていると、私も自然とそう言えた。……不思議なほどに口が自然とその言葉を紡いだのだ。
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