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◇
「作物が上手く育たない、か……」
俺、ギルバート・リスターは目の前にある大量の要望書と格闘している。
要望書とは、領民から領主へと向けたお願いを書いたものだ。リスター伯爵家では代々こうやって領民の願いを叶えてきた。そういうこともあり、俺もこの要望書に書いてあることは出来ることならば叶えたいと思っている。
……だが、上手くいかないことも多い。
そもそも、領民みなの願いを叶えることなど無理に等しいのだ。
しかし、領主である以上無視をすることは好ましくない。領主とは、領民のおかげで存在しているといっても過言ではないのだから。
「旦那様。今回の要望書は、どうでしょうか?」
「あぁ、サイラス。……中身は相変わらずだ。俺一人じゃ、どうにもできそうにないことが多い」
ふぅと息を吐きながら、俺は目の前の執事サイラスを見据える。
そうすれば、サイラスは要望書の一つを手に取った。
「作物の件、でございますか」
「そうだな。今回は八割ほどそれだ」
俺の妻であるシェリルのおかげで、土の魔力が枯渇していることはわかった。そのための肥料だって手配した。
……だが、やはりと言っていいのかそれでは所詮一時しのぎにしかならないらしい。
「王家の方には、報告されましたか?」
「……一応、昨日報告の手紙を送っている。もっと早く送ろうかと思ったんだが……」
サイラスからそっと視線を逸らす。……もしも、こうなっているのがリスター伯爵領だけならば、まだいい。が、もしもほかの領地でも似たようなことが起こっているのならば、王国だって無視はできない。
その場合……。
「シェリルが、どうなるかわからないだろ」
『土の豊穣の巫女』であるシェリルは、土に魔力を送ることが出来る。つまり、土を根本から改善することが可能なのだ。
けれど、その場合は……シェリルに多大なる負荷がかかってしまう。さらにいえば、現状この王国に存在する『土の豊穣の巫女』はシェリルだけなのだ。
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