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◇
私が倒れてから数日が経った。
あれ以来、私は部屋に閉じこもっているに等しい。……というか、まだ本調子じゃないのだからと、部屋に閉じ込められているのだ。
旦那様は一日三回、朝昼晩と私の様子を見に来てくれる。それは、嬉しい。……そう、嬉しいのに。
(なんだかなぁ……)
私は、微かな不安を感じていた。
理由は……はっきりとしている。最近、旦那様が私によそよそしいのだ。
「奥様~、お茶をお持ちしました!」
そんなことを考えていると、部屋の扉が開いてクレアが顔を出す。そして、私の顔を見てハッとしていた。
「奥様! どうなさいました!?」
「……え、えぇっと」
どうして彼女がそんなに慌てているのかがわからない。
そう思って私がきょとんとしていれば、クレアが私の目元を拭う。……目元は、濡れていた。
(……泣いていたんだ)
そのとき、私は初めて泣いていたということに気が付く。……私は、どうやら自分の心に鈍感らしい。
本当は助けてほしいくらい辛いのかもしれない。けれど、それを口に出すことなんて出来なかった。
「な、何かありましたか!? 何処か痛いのですか……?」
「そ、そうじゃない、けれど……」
クレアに詰め寄られ、私はゆるゆると首を横に振りながら、そう答える。
すると、クレアは少し悲しそうに眉を下げた。……多分、私が遠慮していると思ったのだろう。
「……そ、その、笑わない?」
私は彼女のこの顔に弱い。だから、私が一応そう前置きをすると、クレアはこくんと首を縦に振ってくれた。
その愛らしい顔に、悲しい表情は似合わない。……そう、私は思っている。
「あ、あのね……その」
「……はい」
「旦那様、最近、私によそよそしくないかしら……?」
目を伏せて、はっきりとそう言う。……そうすれば、私の中の微かな疑問は確かな事実へと変わっていく。
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