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「そういえば、奥様。この間からあまり体調がよろしくないと、おっしゃっておりましたが……」
マリンがそう声をかけてくる。なので、私は心配をかけまいと笑う。
そう、私は結婚式以来あまり体調がすぐれない日々を過ごしている。初めはただの体調不良だろうと思っていたけれど、どうにもそうではないらしい。
(……なんとなく、魔力関連のような気がするのよね……)
私は『豊穣の巫女』という特殊な女性……らしい。
『豊穣の巫女』とは王国の自然と魔力が連動した女性のことを呼ぶ。それぞれ土や風、水に炎など。
それらと体内の魔力が連動しているため、自然の魔力が枯渇し始めると『豊穣の巫女』の魔力も少なくなっていく。
訓練をすれば自身の特殊な魔力を使い、自然に魔力を送ることも出来るそうなのだけれど、そこに関してはまだ私にはできない。訓練中という奴なのだ。
「……えぇ、けれど、大丈夫よ。それに、いつまでも寝込んでいるわけにはいかないもの」
体調が悪いからと言って、いつまでも寝込んでいてはダメなのだ。
だって、私はこのリスター家の夫人。いつまでも寝込んで、奥様業を放棄するわけにはいかない。
(それに、今はまだまだ新婚だもの。周囲に私のことを知ってもらう必要がある)
私は王都貴族の生まれ。辺境貴族の社交には不慣れだし、顔も覚えてもらっていない。それすなわち、今の私はコネづくりに勤しむべきなのだ。
「……ですが、奥様。無茶はよろしくありませんよ」
マリンと私の会話を聞いて、サイラスがそう声をかけてくる。その目には心配が色濃く宿っており、私は肩をすくめることしか出来なかった。
「頑張るのと無茶は似ているようで違います。お身体の方も、大切になさらないと……」
「……わかっているわ」
貴族の妻の一番の大仕事は、跡取りを産むことなのだ。私が身体を壊し、子を産めなくなっては元も子もない。
それは、わかっているけれど……。
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