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(……あのお方が、アネット様)
私はアネット様を見つめる。どうして彼女がここにいるのとか、いろいろと疑問はある。けれど、それよりも。私は彼女の容姿に意識を奪われてしまったのだ。
輝くような金色の髪はゆるりと腰まで波打っている。その赤色の目は吊り上がった形をしているものの、品のよさそうな顔立ちだった。
背丈は割と高め。そして、何よりも。漂ってくる色香は、確かなものだった。
「……どうして、こちらにいらっしゃるのですか」
私がそんなことを考えていると、サイラスがそう問いかけていた。その声はとても刺々しく、アネット様のことを確実に敵とみなしているのだろう。周囲にいた使用人たちも、年配の人たちは同じような目で見つめていた。年若い人たちは、何が何だかわかっていない様子。
「あら、久々にギルバートに会いに来ただけよ」
「どの口がそんなことをおっしゃるのですか」
アネット様のお言葉を一蹴しながら、サイラスはただ彼女を睨みつける。
そういえば、アネット様は旦那様との婚約を解消したのち、実家を勘当されているはず。……貴族ではないのか。
「まぁ、サイラスったら。私たちは親しくしていたではないの」
「……そんな憶え、一つもありませんけれどね」
忌々しいとばかりにアネット様を睨みつけるサイラス。私は、その場で立ち尽くすことしか出来ない。
「奥様。少し、移動しましょうか」
近くにいた年配のメイドがそう声をかけてくれる。なので、私がこくんと首を縦に振る。
それを見たためなのか、アネット様の意識が私に集中した。
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