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「あら、結婚したという噂は聞いていたけれど、ギルバートの相手はこんな小娘だったのね」
わざとらしい言葉だった。それに、この言葉は私のことも旦那様のこともバカにしているような言葉。……私のことはいくら馬鹿にされたって構わない。だけど、旦那様のことはバカにしてほしくなかった。
(だって、あんなにもお優しいのに……!)
彼女が旦那様のことを傷つけたのだ。だから、許せそうになかった。
私がアネット様を気丈にも見つめ返せば、彼女はころころと笑っていた。
「ギルバートったら、こんな貧相な女が好みだったのね」
アネット様のそのお言葉は、私をかちんと来させる。でも、何も言わなかった。……言ったら、負けだと思ったから。
「まぁ、いいわ。ギルバートが一番最初に愛したのは、私だから」
さも当然のようにそう言うと、アネット様はお屋敷の方に近づいて行こうとした。それを、慌ててサイラスが止める。
「……どうして、止めるの?」
アネット様はきょとんとしながらそう問いかけている。サイラスの眉間に、しわが寄った。
「お言葉ですが、貴女にリスター家に入る権限は、もうありませんよ。……正直なところ、敷地内にも入ってほしくなかったほどです」
サイラスのその言葉は、とても刺々しい。私と初めて会ったときくらいに、声も低い。
「ちょっとくらいいいじゃない。私、ギルバートに会いに来たのよ」
「……旦那様が、望まれませんので」
「そんなの、ギルバートに聞かないとわからないじゃない」
どうやら、アネット様は旦那様に会えると確かな確信を持っているらしかった。
……何となく、胸がもやもやとする。旦那様のことを信じていないわけじゃない。だけど……こんなにも色香を醸し出す女性なのだから、心変わりしてしまわれるのでは……と思って、心配になってしまった。
(いいえ、大丈夫。旦那様のことは、信じなくては)
ぎゅっと胸の前で手を握って、私はアネット様を見つめる。
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