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「……なぁに?」
そんな私の視線に気が付いて、アネット様がきょとんとしながら私のことを見つめられる。
「……いえ」
何でもないと言えば、嘘になる。しかし、何でもないと言わなくちゃいけない。そう、思った。
「もうっ、本当にギルバートったら、恥ずかしがりやなんだからっ!」
どうしてか、不意にアネット様が大きな声を上げた。……その声は、ひどく耳障りだった。
「ギルバートったら、私と連絡を取っていると妻に言っていなかったのね!」
「……え?」
アネット様のその言葉に、私はただきょとんとすることしか出来なかった。……アネット様と旦那様が、連絡を取られていたの……?
(そんなの、聞いていない……。いえ、嘘っていう可能性も……)
旦那様のことをきちんと信じなくては。
心の中ではそう思っているのに、アネット様の言葉が脳内を反復して、上手く声が出てこない。
「アネット様!」
サイラスのそんな声も、何故か遠のいていく。……信じなきゃ。信じなきゃ。
(なのに、上手く信じられない……)
この間からずっと隠し事をされている。それが、私の胸に一抹の不安を抱かせていた。
もしかしたら、旦那様はアネット様と連絡を取られていたのでは――。
信じたいのに、上手く信じられない。そんな自分自身が、とてもみじめだった。
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